独自技術を持つ企業では、このような壁にぶつかることがあります。製品の性能が顧客の求めるレベルを十分に満たしていても、それだけで採用されるとは限りません。顧客が製品を採用するまでには、いくつかの「壁」があるからです。こうしたケースでは、標準化がその壁を取り除く有効な手段になることがあります。
顧客側から採用プロセスを見ていくと、標準化が効果を発揮する場面は、大きく次の3つに整理できます。

最初の壁は、性能以前に「制度上、採用しにくい」というものです。
株式会社トリムは、廃ガラスをリサイクルしたガラス発泡リサイクル資材を開発しました。この製品は土木資材として十分な品質を有していましたが、公共調達ではJIS等の公的な基準が重視されます。そのため、実績だけで公共工事への採用を広げていくには限界がありました。
そこで、密度、吸水率、硬さなどの品質を評価する方法をJIS化したところ、公共工事などで採用されやすい環境が整い、取引の拡大につながりました。つまり、このケースでは、標準化が、「良い製品なのに、採用の土俵に上がりにくい」という壁を取り除いたのです。
次の壁は、「性能は高いのに、その良さが顧客から見えない」というものです。
株式会社ダイセルは、独自の相分離技術を活用し、ディスプレイの「ぎらつき」を低減するフィルムを開発しました。ところが、当時は「どの程度ぎらつかないのか」を公平に評価するための共通の指標や測定方法がありませんでした。これでは、いくら優れたフィルムを開発しても、顧客からすると、「他社製品と比べて、本当にどれくらい良いのか?」を客観的に判断することができません。
そこでダイセルは、「ディスプレイのぎらつき度合の求め方」のJIS化を提案し、JIS規格制定に成功しました。共通の「ものさし」ができたことで、これまで見えにくかった製品間の性能差を数値で示せるようになり、ダイセル製品の優位性を顧客に伝えやすくなりました。問い合わせやサンプル要請、製品採用にもつながり、売上・事業の拡大に貢献しています。
ここで標準化が果たした役割は、「良い製品なのに、その良さが伝わらない」という壁を取り除くことでした。
さらに難しいのが、「良いことは分かる。それでも採用を決断できない」というケースです。
特に、新しい製品を導入することで、顧客側の製造工程や品質保証プロセスまで変更しなければならない場合、採用担当者や決裁者には大きなリスクが生じます。リンクウィズ株式会社は、産業用ロボットを利用し、対象物の三次元座標を非接触で測定するシステムを開発しました。顧客である製造業からすると、これは単に「新しい測定器を1台買う」という話ではありません。従来の検査方法からロボットによる自動測定へ切り替え、その測定結果を品質保証に利用することは、品質保証プロセスそのものを変更する一大決断です。
たとえ新方式の性能が高いことを理解できても、「本当にこの測定結果を信頼してよいのか?」「従来の検査方法を変えて問題が起きないか?」という不安が残れば、簡単には決裁できません。そこで、リンクウィズ株式会社は、産業用ロボットを用いた非接触座標測定システムについて、その性能を確認するための受入検査方法のJIS化を提案し、JIS規格が制定されました。共通の公的な基準に基づいてシステムの性能を確認できるようになったことで、全数自動検査の信頼性確保と普及を後押しする環境が整いました。
ここで標準化が果たす役割は、「良いことは分かる。でも、採用するのが怖い」という壁を下げることです。「性能が良い」だけでは採用されない
この3つを顧客の採用プロセスとして並べると、標準化が必要となるポイントが見えてきます。

優れた技術を持っているのに売上につながらない場合、「もっと性能を上げなければ」と考えがちです。しかし、本当に越えるべき壁は、性能そのものではないかもしれません。
「採用できない」のか。「良さが分からない」のか。それとも「良いと分かっても決断できない」のか。この「売れない理由」を顧客側から見極めることが、標準化戦略を考える第一歩になります。