「自社の技術をJISなどの標準にできれば、ビジネスに有利になるのではないか」
標準化が経営戦略として注目され、このように考える企業も増えています。自社が得意とする技術やその評価方法が標準になれば、顧客にとって自社製品が採用しやすいものとなります。このように標準化には大きな可能性があります。
しかし、標準化すれば必ず事業が成功するわけではありません。標準化を検討する企業には、まず考えるべき問いがあります。
「標準化した後に残る自社の強みはあるか?」です。
標準化とは、多くの企業が利用できる共通のルールをつくることです。標準が普及すれば市場は拡大しますが、同時に、他社の市場への参入を招きます。市場は大きくなったのに、自社のシェアや利益は低下する--標準化には、このような「諸刃の剣」としての側面があります。
そのことを考えるうえで参考になるのが、DVDの事例です。DVD技術では、日本企業が技術開発や国際標準化を主導しました。日本企業は光ピックアップ、信号処理、精密機構などの高度な技術を持ち、多数の特許も保有していました。DVDが世界に普及すれば、それを主導した日本企業にも大きな利益がもたらされるはずでした。実際、標準化によってDVD市場は大きく拡大しました。

出典:経済産業省 平成22年2月25日付け第1回 産業構造審議会産業競争力部会資料
(筆者編集)
ところが、その過程で製品のモジュール化や中間財の市場化が進みます。光ピックアップ、LSI、モーターなどのモジュールを市場から調達し、それらを組み合わせることで、後発メーカーでも一定性能のDVDプレーヤーを製造できるようになりました。その結果、多数の企業が参入し、激しい価格競争が起こりました。ここで重要なのは、日本企業の特許も高度な製造ノウハウも残っているにもかかわらず、完成品における競争力は低下したことです。なぜでしょうか。
それは、競合企業が、日本企業の高度な独自技術を使わなくても、顧客が十分満足する製品を作れるようになったからです。つまり、独自技術そのものがなくなったのではなく、標準化により市場のルールが変わり、その技術の「強みとしての価値」が低下したのです。
この事例から分かるのは、標準化を経営戦略として考えるとき、強みの一つとして「独自技術を持っているか」だけを確認しても十分ではないということです。独自技術と言うからには、他社にはない技術であるのは前提ですが、単に「他社がやっていない技術」というだけでは足りません。特許によって権利化する、あるいは製造条件や材料配合などをノウハウとしてブラックボックス化することで、他社から模倣困難になっている必要があります。そして、さらに重要なのが強み持続性、すなわち、標準化後も、その強みで勝てるか?です。
標準化によって競争環境そのものが変化した後にも、その強みが顧客の選択や企業の利益につながるかを考える必要があります。DVDの事例は、この点をよく物語っています。真似されなくても、真似する必要がなくなれば、強みではなくなります。
逆に、標準化後にも別の強みが残れば問題ありません。さらに理想的なのは、標準化によって自社の強みが増幅される場合です。例えば、自社製品の優れた性能を測定できる評価方法を標準化する。それまで「当社製品は高性能です」と説明するしかなかったものが、標準化された共通の物差しによって、競合製品との差を客観的に示せるようになります。

標準化によって市場を広げる。そして、広がった市場の中で自社の強みを生かして利益を獲得する。その強みは、特許に守られた独自技術でも、秘匿されたノウハウでも、コスト競争力でも、ブランドでも構いません。
大切なのは、他社になく、簡単に真似されない強みを持ち、標準化後も、その強みで勝てることです。標準化を考えるとき、「標準化することで、自社のどの強みが今まで以上に活きるのか?」ここまで描けて初めて、標準化は単なる技術ルールづくりではなく、企業の競争力を高める経営戦略になります。