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標準化の成否を左右する「実証データ」という資産

2026年10月11日

■ 標準化の進捗を左右するものは何か

自社の優れた技術を広く普及させるために、JISなどの標準化に取り組む企業が増えています。特に、独自の技術や製品を持つ中小企業にとって、自社製品の性能を評価する方法の標準化は自社技術の価値を市場に認めてもらうための有効な手段となります。

しかし、標準化に取り組み始めた企業が、必ずしも順調に規格制定まで進められるわけではありません。比較的短期間で規格制定に至る企業がある一方、途中で検討が停滞し、場合によっては断念してしまう企業もあります。この違いを生む大きな要因の一つが、標準化に必要な実証データが、どの程度蓄積されているかという点です。

例えば、性能の評価方法を標準化する場合には、測定条件や評価手順を明確にし、異なる機関が評価しても一定の再現性が得られることが重要になります。こうした検証を標準化の検討開始後に一から行うのか、それとも長年にわたって蓄積してきた実証データを活用できるのかによって、標準化の進捗には大きな差が生じるのです。

■ 長年の実証の蓄積が標準化を後押ししたトライボテックス

その好例として挙げられるのが、新市場創造型標準化制度に採択された株式会社トライボテックスの事例です。同社は、滑り軸受などに使用する潤滑油の汚染度(機械の摩耗によって生じる金属等の粒子によるもの)を計測することによって、機械の劣化度を把握するシステムを提供しています。特に、気泡を除去することなく、リアルタイムで汚染度の計測できる独自技術を有しており、20年以上にわたって設備診断に関する技術データやノウハウを蓄積してきました。また、顧客との共同研究や、産業技術総合研究所との計測技術に関する共同研究にも取り組んできました。ここで注目すべきなのは、同社が単に自社製品の性能を社内で確認してきたのではなく、外部の関係者とも協力しながら、長年にわたって技術の有効性を検証してきたという点です。

同社は、蓄積されたデータをもとに滞りなく2021年2月に新市場創造型標準化制度に採択され、2023年10月には、JIS B 9947(液中粒子計数器における気泡識別計数能力の評価試験方法)が制定されています。もちろん、実証データが豊富に存在すれば、それだけで規格が制定できるわけではありません。規格の適用範囲や評価方法の妥当性、関係者間の合意形成など、別途検討すべき事項もあります。それでも、標準化の根幹となる技術的な裏付けがすでに存在していることの意味は大きいです。トライボテックスの事例は、日々の研究開発や顧客との技術検証の積み重ねが、後になって標準化を進めるための重要な資産になることを示しています。

■ 優れた技術があっても標準化が進まない理由

一方、標準化の支援現場では、これとは対照的なケースに遭遇することがあります。自社技術の優れている点については、当然に企業自身が十分に認識しています。ところが、その優位性を客観的に評価する方法について尋ねると、明確な答えが得られないことがあります。また、外部機関による検証が行われておらず、第三者が同じ結果を再現できるかどうか分からないこともあります。

こうした状態で標準化に取り組むと、規格原案の検討以前に、評価方法そのものの確立から始めなければなりません。どのような試験条件が適切なのか。どの指標で性能を評価すべきなのか。測定結果に十分な再現性があるのか。異なる製品や技術にも公平に適用できる方法なのか。これらを一つずつ検証するには、相当の時間と費用が必要になります。さらに、大学や研究機関などとの協力体制が整っていなければ、検証を実施する体制づくりから始めなければなりません。

その結果、企業側の負担が増大します。このような理由で、標準化への期待が大きかった企業の取り組みが頓挫することが多々あります。ここで問題となるのは、必ずしも技術そのものの優劣ではありません。優れた技術を持っていることと、その優秀さを客観的に証明できることは、別の問題なのです。

■ 実証データの蓄積は標準化における大きなアドバンテージ

このように考えると、標準化に取り組む企業を評価する際には、技術の独自性や市場性だけでなく、実証データの蓄積状況にも注目する必要があります。特に重要なのは、データの量だけではありません。そのデータがどのような条件で取得され、どの程度の再現性を持ち、第三者による検証に耐えられるものなのかという「質」も重要です。

例えば、長年にわたって顧客との共同評価を実施してきた企業や、大学・公設試験研究機関との共同研究を続けてきた企業は、標準化に必要な技術的基盤をすでに備えている可能性があります。こうした企業は、標準化に取り組む際の追加的な実験負担を軽減できるだけでなく、評価方法の妥当性について関係者の理解を得やすいという利点も期待できます。

逆に、実証データが不足している企業であっても、標準化を諦める必要はありません。ただし、その場合には、直ちに規格原案の作成を目指すのではなく、まず客観的な評価方法の確立と実証データの蓄積に取り組むことが重要であり、負担に対し覚悟が必要になります。

また、現時点で標準化を考えていない企業にとっても、この視点は重要です。将来、自社技術の普及に標準化を活用する可能性があるのであれば、日頃から評価条件や試験結果を体系的に記録し、可能な範囲で外部機関との共同評価を進めておくことが望まれます。標準化は、取り組むことを決めた時点から始まるものとは限りません。長年の研究開発や顧客との技術検証が、結果として標準化への準備になっていることもあるのです。

実証データが豊富に蓄積されていることは、標準化に取り組む企業にとって、非常に大きなアドバンテージとなります。標準化を支援する側も、標準化に適した企業を見極める際には、「どれほど優れた技術を持っているか」だけでなく、「その優秀さを証明するために、これまで何を積み重ねてきたか」という視点が欠かせないと言えるでしょう。

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