1.オープンとクローズドの判断
知財戦略を考える上では、自社が有する経営資源がオープン(他社に使わせる)にしてよいものなのか、クローズド(他社に使わせない)にしなければならないものなのかを判断する必要があります。強みである経営資源は、クローズドに分類し他社に使わせないのが基本です。強みでない経営資源は、積極的に他社に使わせたいものとそうでないものがあります。何が自社の強みで、それがどのように維持されているのかを把握することが重要です。なお、経営資源には有形のものと無形のものがあり、無形資産のうちの一部が知的財産に相当します。
知的財産権、知的財産、知的資産、無形資産の分類イメージ図
(出所)経済産業省 知的資産経営ポータル
具体例
例えば、上記の分類ができていなかったため、他社と共有する測定手順の標準に、自社の強みである測定技術のノウハウまで含めて公開しそうになり、自社の競争優位性を失いかけたという事例もあります。
2.自社の強みの明確化
改めて「自社の強みは何か?」と問われて、明確に答えられる企業は意外に少ないものです。
その判断を支える手法の一つとして、VRIO分析を活用することをお勧めします。この手法は、ジェイ・B・バーニー氏が提案したもので、以下の4つの視点から経営資源を評価します。
● Value(価値): 経済的価値があるか?
● Rareness(希少性): 他社にはない独自性があるか?
● Imitability(模倣可能性): 他社に簡単に真似されないか?
● Organization(組織): 組織として活用できているか?
VRIO分析を通じて、自社の強みを改めて整理することが、知財戦略の出発点となります。
3.オープン化と競争優位の持続
技術や製品をオープン化する際には注意が必要です。市場拡大に目を向けるあまり、自社の競争優位が失われるリスクを見逃しがちです。競争優位を維持するためには、クローズドにすべき領域を守る仕組みが欠かせません。オープン化する領域とクローズドにすべき領域とが区分され、それらが連動したとき利益が最大化されます。
業界の売上と自社のシェア
(出所)経済産業省「標準化をビジネスで⽤いるための戦略」
この考え方は、VRIO分析の「模倣可能性(Imitability)」の観点に通じます。他社が模倣しやすい特徴は、競争優位を短命にしてしまいます。そのため、模倣されない理由を明確にし、それを維持・強化する仕組みを構築することが重要です。
4. 模倣を防ぐ手段
模倣防止の手段として有効なものの一つに特許があります。特許は、模倣を阻止する範囲を明確に提示でき、排他権が与えられるものなので、非常に優秀な手段といえます。しかし、特許以外にも、独自の調達ネットワークや製造条件といった技術的ノウハウを秘密に管理することが効果的な場合もあります。各手段には長所と短所があるため、専門家と相談しながら、自社に持続的な競争優位をもたらす最適な方法を見つけ出すことが推奨されます。